補助資料:熱はどこへ行く?豆の中の熱伝導を追う
焙煎では、外から内へ熱が移動する。
今日はその中でも 熱伝導(conduction) にフォーカス。
熱伝導とは?
温度差があると、物質内部を熱が移動する現象。
- 例:カイロの発熱がシート→手へ伝わる
- 例:金属スプーンの先端を湯に入れると、持ち手まで温かくなる
フーリエの法則
$$ q = -k \frac{dT}{dx} $$
- $q$:熱流束 [W·m⁻²]
- $k$:熱伝導率 [W·m⁻¹·K⁻¹]
- $\dfrac{dT}{dx}$:温度勾配 [K·m⁻¹]
温度差が大きいほど/$k$ が大きいほど、熱はよく流れる。
熱伝導率 $k$
| 焙煎時間 [min] | 熱伝導率 k [W·m⁻¹·K⁻¹] | 水分率 (推定) [wt%] |
|---|---|---|
| 0 | 0.131 | 11 |
| 4 | 0.102 | 7 |
| 15 | 0.075 | 1 |
Fabbri et al., 2011 Table 2 より抜粋
熱伝導率が物質で違う理由
| 物質 | k [W·m⁻¹·K⁻¹](目安) | 主な伝熱機構 | 一言メモ |
|---|---|---|---|
| 金属(銅) | ≈ 400 | 自由電子 | 熱も電気も速い |
| 水 | ≈ 0.6 | 水素結合ネットワーク | 液体の中では高い部類 |
| コーヒー豆(有機固体) | ≈ 0.1–0.2 | 格子振動(フォノン) | 伝導は遅い |
焙煎における「2つの伝導」
1) ドラム ↔ 豆表面(外部での伝導・境界)
金属ドラム(高い $k$)から豆表面へ、接触+対流で熱が入る。
初期の昇温に効く。
熱流束モデル(代表形):
$$ q_{\text{drum-bean}} = h_m ,(T_d - T_s) $$
2) 豆表面 ↔ 中心(内部での伝導)
表面で受けた熱が、内部へ1次元に拡散。
$$ \rho c_p \frac{\partial T}{\partial t} = k \frac{\partial^2 T}{\partial x^2} $$
- $\rho$:密度 [kg·m⁻³]
- $c_p$:比熱 [J·kg⁻¹·K⁻¹]
- $k$: 熱伝導率 [W·m⁻¹·K⁻¹]
- $x$:表面→中心方向 [m]
前半と後半で変わる「熱の届き方」
| フェーズ | 状態 | 伝熱の特徴 |
|---|---|---|
| 前半(乾燥期) | 水分多め | k が相対的に高く、中心まで届きやすい |
| 中期 | 水分減少 | k が低下、中心が遅れがち |
| 後半(1st crack以降) | 乾燥・多孔質化 | 表面先行。内部との温度差が拡大しやすい |
まとめ
- 熱伝導は 温度差 × 伝わりやすさ($k$)。
- 焙煎では「ドラム↔表面」「表面↔中心」の 2つの伝導を分けて考える。
- 前半は水が熱を運び、後半は乾燥構造がブレーキになる。
参考文献
- Fabbri, A., Cevoli, C., Alessandrini, L., & Romani, S. (2011). Numerical modeling of heat and mass transfer during coffee roasting process. Journal of Food Engineering, 105(2), 264-269.
- Fadai, N. T., Melrose, J., Please, C. P., Schulman, A., & Van Gorder, R. A. (2017). A heat and mass transfer study of coffee bean roasting. International Journal of Heat and Mass Transfer, 104, 787-799.