コールドブリューはなぜ美味しいのか?コーヒーの風味を決める「温度」の秘密 #12
概要
コールドブリューとホットブリューは、なぜ味と香りが異なるのか?本資料では、最新の研究(Batali+2022)をもとに、抽出温度が苦味・酸味・フローラル香に与える科学的な違いを詳しく解説します。温度による成分溶解の違いを理解することで、理論的においしい一杯を設計することができます。
1. 研究の背景
- コールドブリューは「酸味が少なくまろやか」という感覚が一般的だが、科学的根拠が乏しかった。
- Bataliたち(2022)は、抽出温度が味覚と香りに与える影響を体系的に検証した。
2. 実験設計
- 産地:エルサルバドル、エチオピア、スマトラ
- 焙煎度:浅煎り・中煎り・深煎り
- 抽出温度:4°C(コールド)、22°C(室温)、92°C(ホット)
- 抽出濃度(TDS)はすべて2%に統一
- 飲用温度はすべて4°Cに統一
3. 成分ごとの温度依存性
苦味成分
- 主要成分:クロロゲン酸ラクトン、フェニルインダン
- 高温で溶解速度が急激に上昇(Noyes-Whitney式に従う)
- コールドでは溶解速度・溶解量ともに低いため、苦味が抑制される
Noyes-Whitney式
$\frac{dC}{dt} = \frac{DA}{L} (C_s - C)$
- 溶解速度は温度に比例して増加する
酸味成分
- 主要成分:リンゴ酸、クエン酸、クロロゲン酸
- pHは高温で顕著に高くなるが、pH滴定可能な酸味(TA)は温度間で大きく変わらない
- 化学的な酸の量には大きな違いはないが、苦味成分などが味覚に影響を与えることでホットbrewの方が酸を感じやすいと予想
フローラル香気成分
- 主要成分:リナロール、ゲラニオール、酢酸リナリル
- 高温では揮発しやすく、香りが飛びやすい
- 低温では揮発が抑えられ、香りが保持されやすい
- 飲用温度を4°Cに統一すると、コールドブリューの方がフローラル香を強く感じやすい
4. 味覚特性のまとめ
温度 | 苦味 | 酸味 | フローラル香 |
---|---|---|---|
高温 | 強い | 強い | 揮発しやすい |
低温 | 穏やか | 穏やか | 保持されやすい |
5. 実践的なポイント
- 苦味を抑えたい → 低温抽出
- 酸味を強調したい → 高温抽出
- フローラル香を活かしたい → コールドブリュー
参考文献:
Batali, Mackenzie E., Lik Xian Lim, Jiexin Liang, Sara E. Yeager, Ashley N. Thompson, Juliet Han, William D. Ristenpart, and Jean-Xavier Guinard. 2022. "Sensory Analysis of Full Immersion Coffee: Cold Brew Is More Floral, and Less Bitter, Sour, and Rubbery Than Hot Brew" Foods 11, no. 16: 2440. https://doi.org/10.3390/foods11162440